木と森への想い


「会社が火事だと言っているけど大丈夫。心配しないで。」

 東京で仕事をしていた私は、お盆休みを実家で過ごし東京のアパートに無事着いたと連絡した時、その知らせを祖母から聞きました。

 父の経営する会社は当時創業30年の材木屋で、父は2代目。私は3兄弟の末っ子で、材木屋は長男が継ぐものと決めつけ東京のベンチャー企業で自分のやりたい仕事をしていました。しかし、火事をきっかけにして戻ってきた三重県。私の祖父が若い頃、孫のために木を植えた山もありました。まだ見ぬ孫を想い「木が育つ頃には孫も大きくなり、その資産となるように」と植えてくれたのです。現在の日本の山の木は、先人たちが未来のために植えてくれた貴重な資産。山を生かしながら木材を売ることこそが、これからの自分の使命でもあると思い、父と兄と共に、地元で木材を販売していくことになりました。

木への想い

 父の会社の倉庫を改装し、インテリアショップを始めました。東京でお店の仕事をしていた私は営業職の経験も無く、どうすれば木材が売れるのか分からないでいました。今思うとそれしかできなかったのです。インテリアショップに足を運んでもらい、木の雰囲気を感じて家具、木の家へとつなげられないかと考えたのです。

 思い返せば私が小学生の頃、近くの川で泳いで遊ぶのは当たり前、魚もいました。大人になってから地元に帰ると、昔のように泳げるだけの水位が無く疑問に思っていました。父に尋ねてみると、地域の山から木材が伐出されなくなり、昔のように森林に手が入らなくなったせいで森林は荒廃が進み、十分な地下水が作られなくなったのだと。もちろん、他にも原因はあるでしょうが、環境問題に無関心だった私が地域の木材を販売しようと、奮い立った大きな理由の一つでした。

 2011年1月に父と兄の元を離れ、四日市で勝負すると決め、松本街道沿いにインテリアショップ「BROOK」を始めました。山に木を植え、私たち孫の成長を楽しみにしてくれていた祖父は亡くなりました。BROOKのオープンは祖父の誕生日でもある1月21日にしました。私にとっては、とても意味のある大事な日です。

地元のものを食す場

 カフェを併設したのは集客のためでもありますが、環境や未来を考えた上で「地元のものを食す場」を作りたかったというのもあります。飲食業は経験もなく、早々に大きな壁にぶつかりました。自分の店で飲食業を学びました。しかしこの経験は私にとってかけがえのないものになり、今ではたくさんの素晴らしい仲間が集まって共に取り組むことのできる大きな事業の柱に成長しています。

人を笑顔にすることを考え生きる

 「木材を売りたい」という想いからスタートした「BROOK」。お店を通して自分がやりたいこと、未来のためにすべきことが日々明確になっていきました。それは「様々なサービスの中に地域の木材を取り入れていくこと」。2017年7月、木材と家具の販売を専門とした「BROOK  FURNITURE CENTER」をオープンしました。

 地域の木材を地域の人が利用する。地域資源は循環し活性化されていく。地元の木材は輸送エネルギーの浪費が少なくなるので、コスト面で大きく寄与される。選べる樹種はある程度限定されますが、コストパフォーマンスの高いオーダー家具を購入することができるというところに地域産木材(杉・ヒノキ)の未来を感じています。